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二、名文・名言に習う [講座]

 次に掲げるのは、日本の近代文学と外国文学から抜粋した、いずれも定評のある名文・名言を集めたものです(昭和後期、平成の作品は評価が定かではないので除外しました)。もとより有名な作品ばかりですので、引用する場合は、必ずそれらの作品に直接あたってください。なお、表記は、旧字体の漢字以外は原文のままにしましたので、現代仮名遣い・送り仮名とは異なりますから注意してください。
 「名文に習う」としたのは、それらの名文を作品として解釈するのが目的ではなく、あくまで文章の読み方・書き方として参考にしてほしいということです。したがった私のコメント(*印)も文章として学べる要点だけを記しました。(講師)

それでは始めましょう。

《近代日本文学から》

 二葉亭四迷「模写といへることは実相を仮りて虚相を映し出すといふことなり」明治19年『小説総論』 
*文章表現も、実相(そのものの本当の姿)をよく観察することから始めましょう。

② 夏目漱石「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい」明治39年『草枕』 
*有名な小説の有名な言葉。3つを対比して結語を導くと説得力があります。

③ 森鴎外「芸術に主義と云ふものは本来無いと思ふ。芸術その物が一の大なる主義である」明治44年『文芸の主義』  
*個別のものを述べる(前者)か、総括したものを述べる(後者)かのヒントになります。

④ 志賀直哉「人間は―少くとも自分は自分にあるものを生涯かかって掘り出せばいいのだ。自分にあるものをmineする。これである」明治45年『日記』より  
*今はやりの「自分らしさ」を探求するのも文章です。(㊟私―講師の好きな言葉です。)

 阿部次郎「物質の価値はすべてこれを所有する人格の反映である」大正10年『人格主義』 
*物と人を対比して人を上位におく考え方のヒントになります。

 芥川龍之介「人生は一行のボオドレエルにも若かない」(㊟若かない=如かず=及ばない。ボードレールはフランスの大詩人)昭和2年『或阿呆の一生』  
*芥川特有の<誇張表現>ですが、どちらかを引き立てる狙いです、どちらでしょう。

 横光利一「象徴とは、内面を光らせる外面である」昭和2年『笑はれた子と新感覚』 
*内面(内容)を最も効果的に表す言葉(象徴する)を引き出すのが表現力の勝負です。

 島崎藤村「木曽路はすべて山の中である」昭和4年『夜明け前』
*全体象徴というか、山の中にひっそり隠れているような「木曽路」ひとつで物語を<暗示>しています。(㊟私の最も好きな<書き出し文>です。)
⑨ 倉田百三「青春は短かい。宝石の如くにしてそれを惜しめ」昭和11年『愛と認識との出発』 
*「青春」=「宝石」の図式で考えられますね。皆さんも<比喩>の語彙を鍛えてみては?

 三木 清「人はその人それぞれの旅をする。旅において真に自由な人は人生において真に自由な人である。人生そのものが実に旅なのである」昭和16年『人生論ノート』
*人生=旅という比喩は多くの文人作家が用いている言葉ですが、ここでは読書のすすめの1冊に挙げておきます。

 高見 順「喜劇は常に悲劇である」昭和21年『わが胸の底のここには』
* これは逆転の発想というか、よほどの洞察がなければ言えない言葉、つまり、あまり「見習」ってはいけない名言です(笑)

 小林秀雄「模倣は独創の母である。唯一人ほんたうの母親である」昭和21年『モオツアルト』
*有名な<アフォリズム>(警句・箴言)で、私も好きな言葉です。模倣と独創は反対語ですから、これも⑪と同様、真似るに難しい用法ですが、良い文章を<模倣>して練習するのは、上達の近道ですよ。
⑬ 中村光夫「自己批評するには、まずその批評の対象になる自己を持つこと」昭和25年『風俗小説論』
*これを文章学習に置き換えると、つねに自分という人間を見つめて文章を書く姿勢が肝心だということですね。
⑭ 大江健三郎「僕には希望を持ったり、絶望したりしている暇がない」昭和32年『死者の驕り』
*~たり~たりで並べるとき、両語句が類似しないことが肝要。これのように反対語を並べるときは、「暇がない」のようなサビが効かないと平凡になります。

ここから《外国版名言集》

⑮ 「自惚れと好奇心とはわれわれの心の二つの災禍である」モンテーニュ(16世紀フランスの哲学者)『エセー』
*自惚れはわかりますが好奇心がどうして災禍なのか。二つ並べてはいるが、その一つが「言いたいこと」であと一つは、誰もが知っていること、そういうヒントでどうですか。

⑯ 「われわれの美徳は、ほとんど常に、仮装した悪徳にすぎない」ラ・ロシュフーコー(17世紀フランスの貴族・文学者)『箴言と考察』
*<皮肉>の典型で、「ほとんど常に」と全面的に言う(中には、などと正直に言わないこと)のが効き目。
⑰ 「五字書くごとに、わたしは三字を消す」ニコラ・ボワロー(17世紀フランスの詩人)『サタイア』
*「わたしは」の位置がおかしいですが、それはともかく、<推敲>の重要性はすでに紹介しましたが、自分の文章を過信しないことも大事だと付け加えます。

⑱ 「芸術が人生を模倣するよりも、人生のほうが芸術をより多く模倣する」オスカー・ワイルド(19世紀アイルランドの詩人・劇作家)『意向集』

*芸術派作家らしい言葉ですが、身近なもので「模倣」するものを考えてみては? たとえば、命・植物・天気・等々。

⑲ 「生活はすべて次の二つから成り立っている。したいけれど、できない/できるけれど、したくない」ゲーテ(18世紀ドイツの文豪)『格言と反省』
*大作家にしては平凡? そんなことないでしょう、なるほどと思いませんか。日常生活にも考えるヒントがあります。

⑳ 「幸福な家庭は皆たがいに似ているが、不幸な家庭は一つ一つ独特に不幸である」トルストイ(19世紀ロシアの文豪)『アンナ・カレーニナ』

*これもまさに「なるほど」ではないですか。あなたの文章にも応用(または引用)できる名言です。

以上で終わりますが、名文・名言はいくらでもありますから、みなさんも見つけてください。私は、学生時代に志賀直哉のあの明晰な文章を「書き写して」練習したものです。ただし、名文・名言をそのまま写して自分のものとして「発表」してはいけませんよ(盗作や毀損等の法律違反になりますから要注意)。「引用」は許容されますが、上記のように必ず「出典・出所」(作者と書名・題名など)を明記してください。

内と外.JPG

   


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